Act.1

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Act.1

 朝目覚めた時に、「ここはどこだっけ」なんていちいち思ったりしないし、ましてや目に入った天井が自宅のものと違うなんて、気づくはずがない。俺は夢の中に片足を突っ込んだまま、もう一度眠ろうと寝返りを打った。うちのベッドこんな狭かったっけ、とうつらうつら思いながら腕を伸ばそうとすると、なにか柔らかいものに触れた。それでも眠気が覚めず、その柔らかいものを掴んで引き寄せる。すると、それは抵抗するように俺の手を振りほどいてきた。俺はそこで初めて「あれ……?」と思う。  なんかおかしい。思い始めてしまうと、なんかおかしいどころではない。大体、うちのベッドの上にぬいぐるみなどは置いてないし、ご主人様に抵抗するようなぬいぐるみなんぞあるはずもない。それでも脳の半分はまだ「夢だろ……」と思っていて、「眠い」と訴えてくる。その錯覚が消え失せたのは、俺の手を振りほどいたなにかが、今度は俺の手を握り締めたからだ。
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