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そこは―――暮らす人々の活気に満ち溢れた町であった。
大都会というほど、高層ビルが立ち並んでいるわけではない。さりとて 田舎とは言い難い程度には栄えている。
まあ、いってみれば、日本中どこにでもあるような小さな都市―――といった規模と景観を備えた地域なわけである。
その名も唱生町(うたうまち)。
そしてこの唱生町の中心街の一角に建っているのが、多くの歌手を要する芸能プロダクション「オフィスUTAU」のオフィスビルであった。
決して大きなビルではない。自社ビルでもない。だが一応、全棟をこの「オフィスUTAU」が埋め尽くしている。
事業が拡大するにつれて、結局はビルを丸々一棟、いつのころから掛かり切っている状態になったのだ。
さて、そのビルの5階にある「第一会議室」の扉をパッと開いてみると、中はよどんだ空気が充満していて、わずかではあるが、ムッとするような熱気のようなものを感じた。
「部屋ん中、ちょっと熱いですね」
扉を開いたその娘は、誰に言うでなくそう感想を口にすると、そのままツカツカとその部屋の奥へと進み、手にしていた資料やらスケジュール帳やらの類を小脇に抱えたまま、横一列に並んでいる南面の窓の一つを鍵を開け、勢いよくスライドさせて開いた。
「わあ、気持ちいいですねェ」
緑映える初夏の晴天―――。
まだそれほど湿り気を帯びていない南風が、パッと室内を吹き抜けると、中に籠っていた熱気が一瞬で雲散霧消し、一気にさわやかな空気で全体が満たされた。
彼女が身に付けている、モスグリーンを基調としたいわゆるメイド服調の「衣装」―――もうほとんど普段着と化している―――も、全体がひらひらと柔らかな風になびく。
「なんだか、最近、妙に忙しいお」
その刹那、背後で―――ちょうど先ほど彼女が開いた扉の辺りで―――赤い髪をした“妙齢”の女性がボソリと、そう呟いた。
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