Act.7

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Act.7

「ありがとうございましたー」  ビニール袋を手渡した客の背中に向かって声を掛ける。俺と同年代くらいの男は振り向きもせずにコンビニを出て行った。  俺がいま着ているのは青いストライプの制服。家からも大学からも少し離れた場所にあるコンビニは、あまり知り合いも来なくてちょうどいい。二時間働いたので、あと二時間の勤務だ。あー早く上がりたい。コンビニバイトはラクなようでいて、意外と雑務が多いのだ。 「いらっしゃいませー」  お馴染みの音楽と共に入口の自動ドアが開いたので、顔だけ向けて口を開く。手元はタバコのストックを数えていて、あーセッターのミディアム補充しなきゃなー、とか考えている。そうして意識的に仕事のことを考えなければ、俺の思考回路は同じところをぐるぐると回ってしまうのだ。  須永彩人。  この人のことについて考え始めるとキリがない。出会いも唐突だったし押し倒されたもの唐突だったし、借りを返せと言われて行けばキャバクラに連れていかれたり、彼といるとなにが起こるかわからない。しかし、彼は次から次へと予想外のことに取り巻かれる俺を見て、楽しんでいたのだ。本人が「遊んでる」と言ったのだから間違いない。この言葉を聞いたとき、俺はものすごく腹が立ったし、ものすごく、なんていうか、あの、……悲しくなった。
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