Act.11

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 予想していたことだった。けれども、実際須永さんの口から直接聞くと重みがある。心臓が軋んだ気がした。 「でもわかるだろ、あいつ高校生なんだよ」  須永さんは繋いだ手に力を込めた。振り払えない。握り返すこともできない。前に好きだった人のことなんか聞きたくない。だけど須永さんが話したいなら聞いてあげなきゃいけないような気もする。振り子のように揺れる俺の心のいいところと悪いところ。 「未成年だろ。いろいろ考えて、……俺から突き放した」  そこで須永さんがふっと笑った。自嘲したような笑い方だった。ふと、彼は俺を見る。ぼんやりとした視線は俺を見ているのか、それとももういない少年を見ているのかわからない。須永さんの瞳に映る俺がぐにゃりと歪む。須永さんは目を閉じた。思い出すように、なにかを確認するように言葉を紡ぐ。 「お前に、少し似てる。笑い方とか、仕草とか……」  ぐっと、心になにかが突き刺さったような気分だった。だから、俺のこと構ったの。だから俺のことからかったの。だから……。もし俺があの子に似ていなかったら、俺にこんなに興味を持たなかったの。 「……ひどい」  ぽつり、零れた言葉は自分でも意図しないものだった。心がそのまま言葉を吐き出してしまった。はっとしたように須永さんが俺を見る。引き寄せようと力が込められる手を俺から離した。離してから我に返る。 「あ、いや、あの、そういう意味じゃなくて」  ははっ、と笑ってみる。乾いた笑いしか出てこない。須永さんは焦ったように立ち上がった。 「ちが、そういうつもりで言ったんじゃ」 「知ってます、わかってますよ、やだなあ」  そう言いながら、俺は須永さんに背中を向ける。 「あの、俺、もう帰ります。また飲み行きましょうね」  そう言うのが精一杯だった。引きつった表情をしていると、自分でもわかる。伸ばされた手が届く前に、俺はリビングを出た。廊下を歩いて玄関のドアを開ける。いつかと同じような明るさの月が真上に浮かんでいた。  どうしようもないやるせなさも暴くように照らす月の明るさに、俺は泣きそうになるのを堪えた。
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