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店の自動ドアが開く音がしたので振り返る。
「いらっしゃいま……」
俺の言葉はそこで止まった。
「やっほ!」
入ってきたのはジンさんだった。相変わらず黒縁メガネをかけて柄シャツを着ている。ほんとこの人、仕事なにしてるんだろ。突然のことすぎて余計なことまで考え出した俺の前に、ジンさんは立つ。
「どうしてるかなー、って思って。来ちゃった! よかったーキミがいて」
きゃっ! とでも言いそうなジンさんを目の前に、俺はレジを挟んで猛烈な勢いで彼の肩を掴んだ。ジンさんはびっくりして身体を固まらせている。
「あの!」
「は、はい!」
俺の語調の強さに引きずられるようにして、ジンさんの言葉も大きくなる。隣から中山くんの視線を感じるがそれどころではない。おネエっぽい男性とコンビニの店員がレジを挟んで見つめ合っているのはどう考えても異常だけども、それどころではないのだ。
「このあと時間ありますか!」
「あります!」
なんだこの会話は。初めての告白かなにかか、と思ったがお互い動揺しているのだから突っ込んでいる暇はない。
「前のカフェで! 一時間後に!」
「はい!」
そこで改めてジンさんと見つめ合ってしまって、なにやってんでしょうね俺ら、という雰囲気が漂った。俺は気まずい感じでジンさんの肩から手をどかす。ジンさんはやっとほっとしたように力を抜いた。
「じゃ、じゃあ、アタシ待ってるわね」
「よろしくお願いします!」
真剣すぎて声は大きくなるわ顔は硬直するわで俺は大変だ。ジンさんは手を振りつつ、またドアを潜って行ってしまった。
「……桜井さん、いろんな友達いるんですね……」
中山くんの呆然としたような声が店内のBGMに混じって消えた。
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