Act.15

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 まだまだお互い知らないことが多い。俺の過去も、彩人さんの過去も、クセも習慣も、付き合ってきた人の数も、どうやって愛を伝えたがるのかも、知らないことの方が多い。 でもそこに「好き」があるなら、なんだって乗り越えられるような気がしている。バカだって笑ってくれてもいい。幸せだからいいのだ。それでいいのだ。  八百屋の袋を持ったスーツの彩人さんの後ろ姿を眺めながら、なんだかおかしくてくすくす笑ってしまう。なんとなく立ち止まって、いつ俺に気づくかなんてやってみたりして。  彩人さんは数メートル先で振り向いて、微笑みながら手を差し出した。 「来い」 「はーい」  俺は彩人さんの方へ向かって走る。その手を握る頃には、たぶん太陽も沈み終わって俺たちのことを隠してくれるだろう。ほんとは大声で「彼が俺の恋人なんです!」って叫びたいけど、それは二人だけの時に言うことにして。  気づきにくい日常の幸せをくれるのはいつだって隣を歩く人だって。そう気づいたのはそろそろ草花が春に向かって準備をし始めた頃だった。 I like your style, I like your voice, I like your smile but that’s no why I love you. You know, the reason why is YOU.
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