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「じゃあ今夜はふろふき大根とー、納豆ご飯」
「茶碗蒸し」
「茶碗蒸しは出来合いのなら」
「じゃあ、いい」
「えー、それって俺が明日あたり茶碗蒸し作るフラグですかあー?」
「うるさい、語尾を伸ばすな鬱陶しい」
「彩人さん食べるだけなのに注文ばっかり多いんですよー! 辛いとか薄いとかー!」
「食うならうまいもん食いたいだろ」
「作ってるのは?」
「お前」
「食べてるのは?」
「俺とお前」
「俺はー! コンビニ弁当でもいいんですー!」
「うるさい、語尾を伸ばすな語尾を!」
八百屋の軒先でそんな会話をしていると、いやが応にも目立つ。主婦の皆さんの視線を二人じめしながら大根を買って、俺の家までの道を歩く。
俺だって料理の腕はそこまでじゃなかったのに、彩人さんのために努力したのだ。コンビニの廃棄品で過ごしていた日々からは想像もつかない変化だ。
あの日を境に変化した俺たちの関係は、ゆっくりと深いものになっていくのが実感としてわかった。こうして交わす会話も空気も全部が心地よくて、ずっと一緒にいたい、そう思う。ひょんなことから始まった縁は思いがけない形で結ばれた。俺にとっても彼にとってもいい形で。
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