Act.13

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 俺の体面を心配し出した須永さんに焦れて、俺は衝動でその口をキスで塞いだ。んん、とくぐもった声がする。勢いだった。なにも考えてなかった。体面なんてどうでもいい。俺は須永さんが好きなんですけど、須永さんもそうじゃないんですか。  聞きたいことを流し込むように深く口付ける。最初は俺の胸を押し返していた須永さんの手が、最後には俺の服を掴んだ。俺は角度を変えてキスを繰り返す。ふと離れると、須永さんの目が色づいている。俺の心臓はドクン、と鳴った。 「……中、入りましょう」  俺はポケットの中から鍵を取り出すと、鍵穴に差して重いドアを開けた。須永さんはじっと俺を見ている。ギッと鳴ってドアが開いて、俺に続いて須永さんが部屋に入ったのが合図だった。  今度は須永さんに身体を壁に押し付けられて、頭を抱えられると口付けられた。頭を掴んだ左手が優しく髪を梳く。須永さんからのキスは上手いなんてもんじゃなかった。キスだけでここまで感じるなんて知らなかった。歯列をなぞられて、舌を絡められる。酸欠になりそうなほど求められて、俺は一度身体を離した。 「彩人さん」  彼の目を真っ直ぐに見て言う。右手でトレンチコートの端を掴んだのは、少しの恐怖からだった。逃げないで。 「抱いてよ」  彩人さんの手が俺の頬を撫でる。その感触にまで感じる。 「抱きたいでしょ」  すっと細められた彼の視線は獲物を狙う時のようで、ゾクリ、背中に電気が走る。狩られるのは俺か、彼か。 「俺は、彩人さんに抱かれたい」  俺の頬を撫でていた彩人さんの手が離れた。首筋に顔を近づけられて、そのまま舐められる。ひ、と声が上がりそうになるのを咄嗟に耐えた。 「……後悔すんなよ」  低い声で耳元で囁かれる。後悔なんてするわけがない。彼が必要としているのは俺だって、証明したい。「あの子」じゃない、彩人さんはいま俺に触れてる。彩人さんの熱は俺だけに向いている。俺は目を閉じて彼に身体を任せた。 「……俺のナカに入って」  吐息で言えば、彼がくすりと笑ったのがわかった。
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