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「心配すんだろ、気をつけろよ。ただでさえ細い上に肉もつかねえのに、それで寝不足になっちまったらすぐに身体壊しちまうだろ」
ほらこんなに細い。
悠の手首を大きな手で片手で余裕で掴めるぜという大和はそのまま悠の細い手首に口づけた。
そういえば手首へのキスは欲望っていう意味だったよな、まあたまたまだろうけど。
「………へっ?」
大人しく観察していたのに思わず声が漏れたのはあれだ、大和がそのまま想いも寄らぬ行動に出たからだ。
細い手首にキスをしたその場所に、がぶりと噛みついたからだ。
骨と皮じゃねえか、そう言いながらすぐに口を放したがそれでも悠の手首にはくっきりと噛み痕がついている。
まるで獣のマーキングのように思えたが、まあそれは思い込みだろう。
こいつらは俺と同様、音楽仲間なのだ、天才な悠曰く。
……んっ?
俺はそこで何か僅かな違和感が引っ掛かったが何が引っ掛かったのかが分からない。
まるで喉に魚の小骨が刺さっているような感覚。
なんだろうか、この見落としてしまいそうにも思える違和感は。
「もう、痛いんだけどー」
「軽くのつもりだったんだけどな。……思ったより美味くて」
「骨と皮とか言ったくせに美味しそうなの?むしろ大和の方が程良い筋肉がついてるし美味しそうに見えるよ」
「なんだ、じゃあお前もやってみるか?」
え、お前らまだやんの。
もうやめてくんね、俺たちの砂糖がつきてしまう!!
もう砂糖を吐きすぎて吐ける砂糖がないぜ!!
そう内心で呟いている俺たちなど知らないのであろう、どうかなと首を傾げた悠は差し出された男らしい筋張った手首にかぷりと噛みついた。
くそう、なんだよその筋張った色気のある腕、腕フェチがいると聞くがおそらくそういった人間に大和の腕はドストライクだろう。
「………美味しくない。抹茶の方がいい」
ははっ、笑う大和はお前力ねえなと本当に僅かにうすい痕のついた腕をまるでいとおしむように指先で撫でた。
そんな大和と悠の態度に今度は違和感ではなく温度差のようなものを感じて俺は内心で首を傾げた。
「俺には最高に美味かったけどな」
……早く全部食っちまいたい。
そう低く呟いた消えそうな小さな声を俺の耳は確かに拾ってしまってようやく違和感と温度差の理由を理解した。
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