近くて遠い体温

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「お前んトコの話は知ってる。っつーか、それ聞いて覚悟決めた」 普段適当なクセにって言うか、普段が普段だから。決めた時のコイツは強い、真っ直ぐ前を向いた横顔にうっかり惚れそうな気もする。 いや、女だったら抱かれてた。 「なら、砕けてきなよ。骨は拾ったげる」 「ばーか、それじゃあお前に逃げちまうじゃんか」 背中を叩いてやると、へらへらと笑いながら短くなった煙草を灰皿に捩じ込んだ。 「アタシは逃げ場にしたよ、アンタの事。分かってくれる人間が居ないのは……ツラすぎる……」 その時、太股に鋭い熱を感じた。 視線を落とすと、煙草の灰。 「あっつ!?」 「お前バカ!何してんだよ!?」 灰を捨て忘れてた。 慌てて払うも、その部分は少し赤くなっていた。 「ったく、真面目な話してんのによー……ちょっと待ってろ」 「あはは、悪いっ」 恵斗の持ってきた氷をその部分に直に当てながら。 「で、なんの話だっけ?」 「俺がカムするって話」 「あー、それね」 「ちょっと怒っていいか?」 「わざとじゃないんだし許せっ」 二人してへらへらと笑い合うと、チクリと胸が傷んだ。 本当にどうして恵斗が男なのか、アタシが男じゃないのか、普通に男を愛せないのか。 複雑すぎて、自分でも訳がわからなくなる。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加