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「早よ、帰ろう」
修哉はそう言うと彩十の手を掴み歩き出した。
その後ろにおれも続く。
廊下にはおれ達の足音だけが響いている。
いくら外が暗くなっているとはいえ、学校にはまだまだ人が残っているはず。
なのに廊下にはおれ達の足音以外なにも聞こえない。
いつも遅くまで残っている吹奏楽部の楽器の音、外から聞こえてくる運動部の掛け声、先生のパソコンをうつ音、普段なら意識せずとも聞こえてきた音は何も聞こえない。
これはヤバい、おれが思っているよりもヤバいかもしれない。
いつからと思っても分からない、いつの間にか音が消えていた。
先に行く修哉達の背中を見ながら舌打ちをする。
手に汗がふき出してきた。
うわぁ最悪。
修哉はこの状況を気味悪く思いながらも先に進んでいる。
もう帰れないかもしれない。
そう思いおれは下を向いた。
うわぁ泣きそうだわ、まじで。
家がこういう関係の仕事をしているからといっても、生憎自分がこういう体験をしたことがない。
いや小さい頃に1回あったらしいけど覚えてはいないし、その時は晴斗がいたし、この状況とはまったく違う。
「っ…!」
「んっ?どうしたん彩十くん?」
慌てて声がした方へ視線を向けると彩十が修哉の手を握ったまま動かなくなっていた。
彩十の側に駆け寄ると彩十の顔は恐怖で固まってしまっていた。
まさかと思って前を見る。
そいつは闇に紛れるようにそこにいた。
そいつは、髪がボサボサだった。そいつは肌が青白かった。そいつは匍匐前進するようにこっちに来ていた。そいつは、爪が剥げていた。そいつは、異様に小さかった。そいつの口は赤い何かが。そいつの目は黒く。
そいつの足は。下半身が。
そいつには下半身がなかった。
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