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だけど俺は、認めたくない。自分がたった1人の女のせいで心を乱しているなんて、認めたくないんだ。
響也みたいに優しくも出来ないし、天磨みたいに自分に素直にもなれない。俺はそういう人間だ。他人にはほとんど無関心を貫いてきた。
「それでもハクちゃんは授業をきちんと聞くことで今まで見ていなかった世界を見ることが出来るかもしれないから、寝るのは昼休みだけでいいって言ったんだ。それに……人によっては、早めに終わらせてきちんと寝かしてくれるからって」
「えっ…もしかして俺、姫の貴重な睡眠時間を奪っちまったのか!?」
「ハクちゃんは絶対に違うって言うと思うけど、オレは最初、テンテンの言ったことは有難迷惑だと思ったよ。まぁ、ご飯を食べることはいいと思うんだけどさ」
「ま、マジかよ……!!」
がっくりと肩を落とす天磨。何かぶつぶつと呪文のように言っているが、誰も相手にすることはなかった。
「でもよー、昼休みも寝てたって言うならお姫様は1日何食、食べてるんだ??」
「…たぶん、1食くらい。ハクちゃん、朝はぎりぎりまで寝ているから食べてる時間もないんだって。夜に親戚の人が作った料理を食べるらしいんだけど、食べるのは遅いし小食だから、普通の人の1食分も食べていないかもね」
「だからあんなに細いのか……睡眠も食事もきちんととっていないとなると、いつお姫様が倒れてもおかしくないよなー…つーか、親戚の奴らはお姫様をどんな扱いしてんだ??」
「それはオレにも分からない。ハクちゃんはただ、みなさんとても優しい、としか言わないから」
玖珂白桜はお人好しなのかもしれない。他人の悪いところは見えない、偽善者にもなれない、自分のことより人のことを庇う。俺が今まで、一番嫌ってきた部類の人間だ。
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