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玖珂白桜side
せっかく誘ってくれた響也さんたちが教室から出て行くのを、見送った。
いろんな音に紛れては消えていく、クラスメイトたちが誰一人いなくなったのを確認して私はようやく重い腰を上げる。
教室を出て向かったのはいつもと同じ、校長室。誰にも見つからないように配慮しながら廊下を歩き、たどり着いた校長室をノックした。
「どなたかな?」
「あ…玖珂、白桜です…」
「入っておいで、私の天使」
“天使”
彼は、私の事をそう呼ぶ。私から見たら、彼のほうがずっと天使のようだと思うけれど。
ゆっくりとドアを開けると見慣れた部屋の中にある校長席に深く身体を預けている槙志さんがいた。
彩人さんと唯弥くんの姿を探したけれど、槙志さん以外には誰もいない。
「こっちにおいで、天使」
「はい…」
手招きをされて、言われたとおりにとてとてと槙志さんの元に近寄る。槙志さんが座る革製の黒いイスの目の前に来ると、槙志さんは右手で私の頬に手を伸ばした。
「今日は何も変わりはなかったかな?」
「は、い…いつも通り、です」
「そうか。もう少しで彩人が終わるからね。今日は私も一緒に帰れそうだ」
「本当ですか…っ嬉しいです」
「おやおや、そんな嬉しいことを言ってくれるなんて、私が嬉しいよ。私の天使……いつ見ても美しいね」
「…いえ…っ…あ…」
槙志さんの左手が私の腰を抱く。そのまま引き寄せられて、私は槙志さんの膝の上に乗せられてしまった。
身長の高い槙志さんの上に乗っても、目線は私の方が下で槙志さんを見上げる。慈しむように私の頬を何度も撫でた後、唇が頬に落とされた。
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