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デパートの自動ドアを出ると、夏の焼くような熱気にぶつかり目を細めた。 人が多い大通りを避けて、建物と建物の間にある細い路地にあったコンクリート煉瓦の上に腰を下ろした。 風が強い今日は日陰なら暑さは半減する。大きく深呼吸をすると気持ち悪かったのが少しだけ落ち着いたような気がした。 携帯で母親に外にいることをメールしたけど、返事が全然返ってこないからきっとまだ立ち話をしているんだろう。 「あぁ……ハクちゃんに会いたい…」 思わず漏れた、本音。 高校生活最後のこの夏休みは、オレにとって決して忘れることのない夏休みになりそうだ。ハクちゃんのことばかりを考える、そんな日々。 遊びに行くわけでもない。一生懸命、受験勉強をするわけでもない。ただやることはやるけど、頭の中はハクちゃんのことだけでいっぱいになっている、そんな夏休み。 会いたい。どうしようもなく、会いたい。 会って、抱きしめたい。ハクちゃんの甘い匂いに包まれたい。柔らかくて綺麗な白金の髪を撫でたい。会いたい会いたい会いたい。 「…重症、だな~…」 自嘲的な笑みがこぼれる。頭を抱えて、泣きそうになるのをぐっと堪えた。 こんなに誰かを好きになったことがないオレは、どうしたらいいのかすら分からない。ただ会いたい、それだけなのに。好きな人に会うことが出来ないなんて。 しかも、今オレがこうしている間にも、ハクちゃんはあの親戚の奴らに抱かれているかもしれない。考えないようにしていても、一度頭に浮かんでしまったら中々消えなくて。 やり場のない嫉妬と苛立ちと焦燥に心を丸ごと支配されていく。次にスメラギを見たら手を出さずにはいられないかもしれない。 それだけ、今のオレにとってハクちゃんに会えないことは、拷問よりも辛いことだった。 .
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