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2人とも、仕事が忙しいのかもしれない。出張に行っているのかもしれない。 そう何度も言い聞かせてきたけれど、こんなに会わない日が続いたのは初めてで何かあったんじゃ…と不安になってくる。 唯弥くんに聞いても「大丈夫だよっ」と可愛い笑顔で返されるだけだし、聖瑛さんは無言を貫く。 眠くなったら寝て、起きたらご飯を食べる。ご飯を食べたらまた眠くなる。そしてまた起きてご飯を食べる。ずっとその繰り返し。 だから、2人が今までのように私が起きているときに抱くことはなくなった。だけど起きたときに腰や身体の節々が痛かったり、胸元にキスマークがついていたりするのを見る限り、私が寝ているときに抱いているんだと思う。 抱かれているのに起きないってことは、それだけ強い薬を飲まされているってことで。どうしてここまでして私を眠らせておきたいのか、分からない。 「はい、白桜ちゃんっ。今日は麻婆豆腐だよ!」 「…ありが、とう。……頂きます」 そして今日も、普通の人の量よりずっと少ない食事をゆっくりと時間をかけて食べ終えれば、ほとんど目を開けていられないほどの強い眠気に包まれる。 意識が途絶える直前にいつも浮かぶ顔は、響也さんや天磨さんたちで。これからたくさん話して仲良くなれるかもしれないと思っていたのに、会いたくても会えない。 だけど唯弥くんと聖瑛さんに逆らうことはどうしても出来なくて。2人が今の状況を望んでいるなら、ずっとこのままでもいいとさえ思ってしまう。 あの日から、私の世界はこの家の中だけになった。毎日が怖くて、怯えて、眠れない夜がずっと続いた。だけど初めて槙志さんに抱かれて眠った日から、それもすべて安心に変わった。 私のために、槙志さんたちは毎晩私を抱いて私が不安にならないようにいつも傍にいてくれる。たまに恥ずかしいことを要求されても、絶対的な安心を失うよりはずっとマシだった。 だからもし、今の状況を作ってしまったのが、私が響也さんたちと話すようになったからだとしたら。 私は、響也さんたちとは二度と話さない選択が正しい。 .
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