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次に深い眠りから覚めると、私が眠るベッドに腰をかけている聖瑛さんの姿があった。
瞼を開ける直前、朦朧とする意識の中で頭に温かい感触がしたけれど目を開けたらその温もりは感じられなかった。
きっと聖瑛さんが頭を撫でてくれていたけど、私にバレるのが嫌だからすぐに手を引っ込めたんだろう。
聖瑛さんは一見、冷たくて残酷そうに見えるけど私は聖瑛さんの優しさも知ってるからどんなにひどいことをされても嫌いになんてなれない。…少し苦手ではあるけれど。
「…起きたか」
「おはようございます」
「飯が出来ている。食べろ」
「はい、ありがとうございます…」
さっきも食べたような気がするけど、眠っている間に時間は過ぎていたみたいでお腹は空いていた。
唯弥くんのときと違って、聖瑛さんとの会話は無駄がない。部屋から出たいなんて聖瑛さんには絶対に言わない。
聖瑛さんは命令や指図されること極端に嫌う。聖瑛さんがダメだと言ったことに「でも」とか「だけど」と言い返すのは自分の首を絞めることだ。
一度怒らせてしまったら泣いても嘆いても聖瑛さんの気がすむまでは許してもらえない。
「……聖瑛、さん」
「なんだ」
「あの、…キスして、くれませんか」
「………」
「私が寝ている時じゃなくて、起きているときにしてほしい…です」
聖瑛さんが作ってくれたチキンドリアを食べる前に、普段なら絶対に言わない言葉を言った。
「…ダメ、ですか」
「……」
無意識に震える声と共に聖瑛さんを見上げれば、みじろぎひとつしない深く鋭い瞳とぶつかった。
そのまま数秒、どちらも目を逸らさずに見つめ合う。聖瑛さんが眼鏡を取ったのを合図に、私は瞼を閉じる。
刹那、綺麗な唇が私の唇に触れた。
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