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喪失感の中、ただ時間だけが無音の微風のごとく、私の周りを吹きすぎて行く。 泣きすぎて朦朧とする意識と疲労に襲われ、ベッドの上に力なく横たわった。周りに散らばるたくさんのぬいぐるみも、今は心を苦しめるものでしかない。 しばらくそのままの状態で、どのくらいの時間が過ぎたのか分からない。きっと30分も経っていなかっただろうけど、数時間経過したような気がした。 これから私がやるべきことは…ただ、1つ。 とても温かくて自分を守ってばかりいた私を捨てる。光の中には、これ以上いられない。いてはいけない。 「…私の居場所は、ここじゃ…ない」 苦しまなければいけない。自分の罪を一瞬でも忘れてはいけない。逃げてはいけないんだ。自分の犯した罪から、逃げてはいけないんだ。 だから……ここにいたら私は玖珂家の人たちに甘えてしまう。学校に行ったら、響也さんたちに甘えてしまう。 きっと玖珂家の人たちも響也さんたちも、迷惑に思ってる。みんな優しいから突き放せないだけで、本当は迷惑だと思ってる。 今まで気付かなかったなんて、本当に私って愚鈍……。 「さよならを、言いに行かなきゃ…」 何も言わずに、もう二度と会わなければいい話なのかもしれない。だけど響也さんにはとても感謝しているから。何も言わずに消えるなんてことは、したくない。 これで最後だから、これで最後にするから……最後にもう一度だけ、会いたい。 会って、感謝の気持ちを伝えて、さようならを言って、そしたら私はもう二度と響也さんにも天磨さんにも、みなさんにも会わない。 あの人たちの隣は輝きすぎている。私には不釣り合いの場所で、眩しすぎるから。 響也さんたちにさよならを言ったら、玖珂家のみなさんにもさよならを言おう。 そう固く決意をして、まずはどうやってこの家から出ようかと考え始めた。 .
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