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そっと足音を立てないようにドアの前まで行く。ドアに耳をつけて外の音を聞いてみたけれど、何も聞こえなかった。
誰もいない…なんてこと、あり得ないとは思うけれど……聖瑛さん1人だけの可能性は高い。
恐る恐るドアノブに手をかけてゆっくりと回してみると、開かないと思っていたはずのドアが開いた。
膝が震えて身体がすくみ上がるような堅苦しい気詰まりを感じながらも、大きく深呼吸をしてドアから顔だけを出してみた。
久しぶりに見る廊下は前と何も変わらずにひっそりとしている。誰かがいる気配はなかった。
「ふぅ…」
全身の毛穴から疲労が浸み出すような安堵感に、少しだけ緊張の糸が緩む。でもここからだ、と自分に言い聞かせて足をドアの外に踏み出した。
開けたドアを音が鳴らないように静かに閉めてから、廊下も静かに歩く。
階段を下りて1階まで来てみると、リビングの明かりが消えていることに気付いた。
そっと中を見てみると本当に誰もいない。聖瑛さんは外に出掛けたのかな…でもあの聖瑛さんが部屋のドアをかけ忘れるなんて、考えられない。
家の中にいるから安心して鍵をかけずに部屋を出て行った、としか考えられない。
でもとりあえず、リビングにはいないってことは自分の部屋にいるのかな。そうだとしたら、今が家から出るチャンスだ。
玄関から出られないことは分かっている。私が唯一この家から出る方法は…あそこしかない。
トイレの窓。
この家に来たばかりのとき、私は何もしなくていいと言われて孤独感を感じた。やっぱり迷惑なんだと思って、この家から逃げ出したときに初めてトイレの窓から出た。
そしてその足でぶらぶらと歩いていた時、あの公園でウサギさんを見つけた。あの場面を和遥さんに見られていたんだっけ。
でもその後すぐに彩人さんに見つかって家に連れ戻された。
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