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トイレのドアをそっと開ける。身体全身が心臓になったかのように鼓動がうるさいけれど、今はそれどころじゃない。 誰もいないことを確認して、トイレの窓に手をかけた。便器の上に乗って、窓から頭を出す。そして手を出して外壁に手をつけ、上半身を出した。 最後に、片足ずつ外に出して高くない距離を飛び下りた。久しぶりの太陽の日差しに思わず目を細める。 ――――――眩しい……けど、気持ちいい………。 アブラゼミが暑さをかきたてるように鳴いているのを聞きながら、裸足で地面を歩く。夏の焼くような熱気に身体を包まれ、足も日陰を歩かなければ火傷しそうなほどに熱い。 夏が苦手な私はじんわりと吹き出す汗を全身で感じながら森の中にある1本の道路を下り始めた。 木々の影のおかげで日差しは避けることが出来ているけど、アブラゼミの鳴き声を聞いているだけで暑さが倍増してるような気がする。 これからどうしよう……響也さんに会いたいけど、家の場所なんて分からない。お金なんて持っていないから電車にも乗れないし…。 あの公園に行けば、あそこから天磨さんのお家には行ったことがあるから分かる。だけどあの公園までの道のりが分からない。 ウサギさんを無我夢中で追いかけていたから通った道の景色すら覚えていない。裸足で歩いていたら、不審に思われるかもしれないし…本当に、どうしよう。 今さらになって無計画のまま玖珂家を出てきた自分に落ち込んだ。それでも歩を休めることはしないけれど。 しばらく歩くと、山道は抜けたみたいで田んぼや畑が広がる細い道に出た。左には細い道の上に高速道路のようなものがある。 右には遠くの方に家がぱらぱらとあるだけで、田んぼや畑がほとんどだった。 .
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