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私が選んだ道は、右。田んぼや畑ばかりなら人もいないし裸足で歩いていても怪しまれないと思ったから。 遠くの方に家があるけれど、だいぶ先だ。もしあの辺りまで行って親切な人に出会えたら、ここがどこなのかを聞いてみよう。 今が何時なのかすら分からないけれど、どこかだらりとけだるい残照になっている日差しから、夕方なのは確かだった。 しばらく歩くと、すぐに自分の体力の無さを実感する。最近は長距離を歩くなんてこともなかったし、こうやって外を歩くことすら久しぶり。 ウサギさんを追いかけていたときは心を躍らせていたから疲れなんて感じなかったのに、ウサギさんがいるのといないのとじゃ心の持ちようが違いすぎる。 「It's hot…」 無意識に出てきた、英語。一番使い慣れている言語だからこそ、反射的に出る言葉はいつも英語になってしまう。 なるべく日陰を歩くようにしていても暑いものは暑い。歩いているんだから、さらに暑い。それでも私は頭の中を無にして歩き続けた。 どのくらいの時間歩いたかな……遠いと思っていた家々が近くなってきた。空も茜色と群青色のグラデーションになっている。 裸足で歩いていた足は土で汚れ、どこかで石で傷をつけてしまったのか、ひりひりと痛んだ。重くなっていく足を一歩一歩前に動かして、ようやく1つの家の近くまで来た。 『南条』と書かれたお家の横には、『五十嵐』と書かれているお家がある。少し先にはちょっとした大通りに繋がっているのか、車が通り過ぎていくのが見えた。 誰かいないかな、と思いながら先に進もうとした時。 「全く響也は…せっかく荷物持ちに一緒に来させたのに、菊池さんとちょっと話していた隙にいなくなって…」 前から、両手に大荷物をぶら下げて歩いてくる1人の女性が見えた。 .
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