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No side
なだらかな山頂に続く1本の道路の先に佇む、山奥にあるとは思えない三角屋根の御殿のような広壮な邸宅。
時刻は森の生き物たちもすっかり寝静まる時間帯の中、その家の1階にあるとある部屋だけはオレンジの明かりが灯っていた。
オレンジの光の下、いかにも高そうな黒い革張りのソファに深く腰掛ける人物は目の前にあるテレビ画面を、目を細めながら見つめていた。
少し離れたところにある、マシュマロのような丸椅子の上でウサギのぬいぐるみを強く抱きしめ、ぬいぐるみに顔を押し付ける比較的小柄な少年の後ろでは。
回転椅子に座り、くるくると楽しそうに回る大人気ない人物。その手の中には、何故か女子のブレザーの制服。
1人、椅子にもソファにも座らずに廊下に続く扉に背をつけ、腕組みをしながらテレビ画面を見つめる人物の頭部を鋭く睨みつける人物の目元には、キラリと光る銀縁眼鏡。
誰も言葉を交わすことなく、しかし誰一人この部屋から出て行こうとしない異様な空気。
余裕そうな笑みを浮かべる者。
愛しい人に会えず蹲る者。
楽しそうに制服に鼻を擦り付ける者。
鋭く目を光らせ憎悪を抱く者。
彼らの共通点は、ただ1人の白金の美少女。
そして今、その白金の美少女の笑顔はテレビ画面の中。隣では明るい茶髪が揺れていて、2人の距離はとても近かった。
「…小娘をどうするつもりだ」
「………」
「んふふっ、お子様には内緒だよ」
「白桜ちゃんに会いたいんだけどっ。早く連れ戻せよ変態野郎」
「おい、おっさん。俺はあんたに聞いてんだ。何考えてやがる」
「………そろそろ天使を、自由にしてあげないとね」
「あぁ!?」
銀縁眼鏡の男は、さらに強くテレビ画面を見つめる人物の頭部を睨みつけた。
後ろから確かな殺気を感じているはずなのに、怒りどころか和かに口元を緩める人物は、薄い唇の下にあるホクロを指先で撫でながら。
「天使の羽もたまに伸ばさなければ、ただの飾りになってしまうからね」
穏やかな心地のいい声を、響かせた。
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