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玖珂白桜が響也の家に居候をし始めてから、約1週間後。玖珂唯弥が響也の家のインターホンを鳴らした。
ついにその時が来たか、と響也は玖珂白桜を家の奥に引っ込めて、1人外に出た。中サイズの黒いボストンバッグを肩にかけた玖珂唯弥が何を言うのかと身構えたが。
『これ、白桜ちゃんの着替えとか制服とか入ってるから』
そう言って、ボストンバッグを響也に押し付けたらしい。まさか玖珂白桜の荷物を届けに来るなんて思ってもみなかった響也は、その場に立ち尽くした。
玖珂唯弥は本当に荷物だけを届けに来たようで、そのまま立ち去ろうとしたが。最後に振り返って、一言。
『白桜ちゃんに何かしたら……ぶっ殺す』
俺は玖珂唯弥と言う奴と会ったこともないからどんな容姿をしているのか分からないが、響也が言うには童顔で男にしては可愛い顔をしているらしい。
そんな顔からは全く連想も出来ないどす黒い声と物騒な言葉を残していった玖珂唯弥。その時の表情も身震いするものだったと響也は言っていた。
だがこれで、玖珂白桜が響也の家にいるということは最初から知っていたということが分かった。
携帯も持っていない玖珂白桜の足跡を追うことなんて、発信機しか考えられないけど玖珂白桜の衣服にもそういうものは出てきていない。
何となく、発信機の話をした時の玖珂白桜の様子が俺は気になったが、敢えて深くは追求せずにいる。
響也の母親はどうも玖珂白桜をとても気に入ったらしく、深い事情を説明しなくても居候することの許可を出した。
響也の父親は単身赴任で九州にいる。年に数回家に帰れるくらいなので、何の問題もないらしい。
むしろ、親のいない玖珂白桜を心配してあれこれと手を焼いてるほどだと響也は困ったように話していた。
どこか自慢話に聞こえるのは、俺の勘違いだろうと勝手に処理をして。今日も俺は、見えそうで見えない、だけど既に見えている思いから目を背けていた。
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