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体育祭は10月の第一土曜日に行われる。ハロウィンの月と言うこともあって、仮装リレーは必須なのだろう。
普通の女子生徒が仮装するくらいには、別に変な雰囲気になるはずもないが。玖珂白桜が仮装したら、それはもう大変なことになるのは目に見えていた。
「…ってかトッキーさぁ、さっきから眉間にすんごいシワ寄せて黙りこくってるから怖いんだけど~」
「…うるせぇ」
「はぁ……本当に素直じゃないよねぇ」
「……ちっ」
響也の言葉に思わず舌打ちをした。隣の玖珂白桜の肩がビクッと跳ねたことにもいい気がしなくて、こめかみを引きつらせる。
それ以上は俺を怒らせるだけだと分かったのか、響也は玖珂白桜に話しかけ始めた。
「ハクちゃん、月曜日に仮装リレーは出られませんって言おうよ~」
「え…」
「うち、写真部もあるの知ってる~??写真部は体育祭の時が一番かきいれ時なんだよ~。ハクちゃんの仮装した写真なんて、絶対めちゃくちゃ売れるに決まってるもん」
「写真、ですか…」
「オレはハクちゃんの写真を撮られるのも嫌だし、大多数の人前で仮装もしてほしくないなぁ~」
「……」
やんわりとお願いしているように見えて、響也は真剣に玖珂白桜を仮装リレーに出させないためにどうすればいいかを考えている。
玖珂白桜には伝わっていないだろうが、俺には手に取るように分かった。何しろ、目が笑っていない。
少しの沈黙の間、玖珂白桜は何かを考えている様子で。このまま響也の言葉に流されるだろうと思っていたが、出てきた言葉は違った。
「でも、私は……自分でやると決めたことは最後までやりたい、です…」
いつもの儚げな印象とは違う、凛とした横顔を見たとき、どくりと俺の中の血が疼くのを感じた。
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