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思わず目を見開いてマジマジと玖珂白桜の白く小さな横顔を見つめる。長い睫毛の中にあるグレーの瞳は真っ直ぐ前を向いていた。
初めて玖珂白桜自身の固い決意を聞いたような気がして、少しだけ玖珂白桜の印象が変わる。きちんと自分の意思を持っていて言葉に出来るのか、と驚いた。
響也も俺と同じような顔をしているんだろうと思って見てみると、困ったような顔で微笑を浮かべていた。
「……ハクちゃんなら、そう言うと思ったよ」
―――――どくり
嫌な血が騒ぐ。黒い感情が目に見えるように押し寄せてくる。
響也の言葉に、胸の中が煮え返るような動揺をしながらも必死に平静を装う。これ以上2人を同じ視界に入れたくなくて、視線を地面に落とした。
「意外と意地っ張りだから、オレが言っても絶対にやめないだろうしねぇ。そういうところも大好きだよ~」
「ひ、響也さんっ…!!」
「あぁ、トッキーはオレがハクちゃんを好きなことは知ってるから大丈夫だよ~。あはは、照れてる顔もめちゃくちゃ可愛い~」
「うっ…」
隣でされているやり取りに、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。上手く思考が追い付かなくて、普通に息をしようとすることでいっぱいいっぱいだった。
会話からして、響也が玖珂白桜に告白をしたことを知る。同じ屋根の下で暮らしていればいつでも2人きりになれるチャンスがある響也。
…関係ない。響也が告白しようが、2人の関係がどうなろうが、俺には知ったこっちゃない。それなのに。
どうして俺は、焦燥感を感じているんだ。
苦しい。――何が。
痛い。――何が。
辛い。――何が。
怖い。――何が。
分からない。どうしてこんなに胸が軋むように苦しいのか、痛いのか、辛いのか。何がそんなに怖いのか。自分のことなのに、何一つ分からない。
行き場のない苛立ちを全身で感じながら、無意識に家を目指す足が早くなった。
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