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早速、ウサギの姿を見つけたお姫様はパッと瞳を輝かせてケージの傍に寄る。俺が来ても全く反応を見せないくせに、お姫様だと分かったのか、ウサギは長い耳を立ててケージの柵にしがみついた。
「ふふっ…私も会いたかった」
ケージを開けて手を伸ばせば、簡単にお姫様の腕の中に飛び込んだ。この家に来てから初めてケージを出たような気がする。
ウサギを抱えたままソファに戻ったお姫様は、愛おしそうに見詰めながらウサギの毛を撫でる。俺への態度が嘘のように、ウサギはすりすりとお姫様に甘えていた。
「…おいおい、薄情なウサギだなー」
「えっ??」
「こいつ、俺に全然懐かないんだぜ。ユキって名前付けてやっても全然反応しないしさー。お姫様に名前、付けてもらった方がよさそうだな」
「名前、ですか…」
ウサギに視線を向けたまま、名前を考えているのか、真剣な表情になるお姫様。この場にいる全員が、その表情に目を奪われていた。
「……大福」
「ん…?」
「大福がいいですっ」
「だ、大福??」
元気よく、ウサギの名前らしきものを口にしたお姫様に開いた口が塞がらない。しばらくの沈黙の後、この空気を打ち破ったのは。
「ぶっ…あ、ははははっ!!」
「響也、さん…?」
「あはっ、ふははっ…も~ハクちゃん最高~。何で大福なの~??」
「えっ…あの、えと…ユキって聞いたら雪見大福を思い出して…何か似てるなーって……変、ですか…??」
「ううん、めっちゃ良いと思うよ~。オレは気に入ったなぁ。でもまさか、大福になるとは想像もつかなかったけど~」
笑いすぎてお腹痛い、と嬉しそうに嘆く五十嵐。遅れながら、天と和も笑い始めた。ニコリともしない南条は、分かっているんだろう。
五十嵐が、お姫様のとんちんかんな答えにすぐに笑えるほど、2人の心の距離は近いってことに。
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