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人形のような容姿に繊細そうな雰囲気から、笑ったりなんかしたら可哀想だよなと思った俺。だけど五十嵐はそれを簡単に崩した。
お姫様はそんなことで傷つかないことを最初から知っていたんだ。そして、お姫様が顔に似合わない言葉を言ったのも初めてではないんだろう。
「あー雪見大福食いてー!!まだ売ってねぇのかな!?」
「く、9月15日から発売、みみ、みたいだよっ」
「マジ!?じゃーもうすぐだなっ。姫は雪見大福、好きなのか??」
「あ、はい。1度だけ食べたことがあるんですけど…とても美味しくて、また食べたいってずっと思ってました」
「発売されたらすぐに買いに行こうね~」
「っ…はい!!」
…この子がこんな風に笑えるようになったのは、五十嵐の存在が一番大きいことは見て明らかだった。
人間恐怖症だと言っていたのに、そんな面影は微塵も感じさせない。むしろ、とても楽しそうで幸せそうに笑っているお姫様。
五十嵐の家に居候することになったと聞いたときは驚いたけど、以前に会った玖珂聖瑛の冷たい瞳を思い出したらあの家から解放されてよかったと思った。
まさか荷物を届けに来たり、五十嵐の家に住むことに沈黙を保つとは思ってもみなかったけど。でも結果オーライだ。
だけどまだ油断は出来ない。簡単にお姫様を手放すとは思えないし、何か裏があるとしか考えられない。
でも今はお姫様が幸せそうだから、それでいい。何かあったときにまた考えればいいんだから。
そう思いながら笑顔のお姫様を見つめる俺の横で、ギリッと歯を噛み締める音が小さく鳴った。
薄々感じてはいたが、隣に座る南条はとてつもなく機嫌が悪い。何しにここへ来たんだと思わせるほど話もしない。
俺より10㎝も身長が高いって言うのに、どうやら心はガキみたいに小さいようだ。
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