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こういうときにどうしたらいいのか、慣れていない私は咄嗟に俯くことしか出来ない。内心、焦っていると頬に人の温もりを感じて視線を持ち上げた。 よく知っている温もりは、私を心底安堵させるもので。さっきまでの焦りが徐々に消えていくのを感じながら、響也さんの手に頬を預けた。 「…ハクちゃん、」 「おい」 響也さんが苦笑いを浮かべながら何かを言いかけた時、後ろから伸びてきた低くて重い声。 その声に身体が大袈裟に跳ねて、安堵しきっていた頬の筋肉が強張る。咄嗟に響也さんの体温から距離をとって、声の主に恐る恐る視線を向けた。 「もう外に行く時間だろ」 「あぁ、そうだね~。ハクちゃん、行こう」 「あ……はぃ」 一瞬、切るような鋭い視線を向けられた気がして前に進もうとした足が竦む。でもすぐにその視線は私を避けるようにして響也さんへと向けられた。 たまに今のように、叶貴さんから睨まれることがある。あの黒くて鋭い瞳に捕まると、心臓までも捕まれたようになって怖い。 叶貴さんが私を嫌いなことは明らか。それでも直接、私を貶めるような言葉は言わない。 きっと幼馴染みの響也さんがとても大切なんだと思う。本当は私が邪魔で煩わしくて仕方がないはずなのに、何も言わずにいてくれる。 それがすごく申し訳なくて、叶貴さんの姿を見ると胸が痛くて苦しくなる。 「こんなに晴れちゃってやだなぁ。体育祭とか暑苦しい行事の時は曇りくらいが丁度いいのに~」 「お前マジで太陽嫌いだな」 「だって焼けるし暑いし汗かくじゃ~ん。体育館で出来る体育祭とかないのかねぇ」 「アホか」 ほら、やっぱり私は邪魔者でしかない。 叶貴さんは響也さんと同じように私の隣にいるけれど、目が合うことはほとんどないし合ってもすぐに逸らされる。 響也さんと叶貴さんは普通に話すけれど、私が叶貴さんと言葉を交わしたのは今まででも両手で数えられるくらいだと思う。 いつものように背の高い2人に挟まれながら、息苦しさを感じつつ、体育祭のことに意識を集中させようとした。 .
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