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恋の予感めいたものが、胸にある。
この感覚は、初めてではない。初恋は小学生の時、同じクラスだった女の子で。2回目の恋は中学生の時、1つ年上の美人な先輩で。
3回目の恋はまた中学生の時、隣のクラスの物静かな女の子で。4回目の恋は高校1年の時、同じ塾に通う女の子。
どの恋も、遠くからひっそりと見つめるだけで、そのままいつ終わったのかも分からないくらい、自然と恋心は消えてしまった。
だから、初めて近付けた女の子とはどんな風に接したらいいのかも分からないくせに。衝動的に自分にとってはレベルが高いと思っていた“抱擁”なんかをしてしまった今。
これまでに経験したことのないドキドキが自分の身体を麻痺させていた。
「……」
「……」
「…」
「…」
沈黙が、怖い。
でも玖珂白桜さんの泣き顔が見たくない気持ちの方が大きくて、またさっきのような表情をしているかもしれないと思うと、抱き締める力を弱めることは出来なかった。
自分はこんなことくらいしか出来なくて、悔しくて情けなくなる。それでも、少しでも玖珂白桜さんのために出来ることは何でもしたいと思えた。
「…自分は、あなたの笑顔が好きです」
「……」
「ほんの些細なことでも、嬉そうに楽しそうに微笑んでくれるあなたの笑顔が好きなんです」
「っ…」
こんなに強く、誰かの笑顔を愛おしいと思ったのは初めてだった。
いや、“誰かの笑顔”じゃなく、“玖珂白桜さんの笑顔”だから愛おしいと思えるんだ。
「ほんの一部でもいいから、あなたの笑顔の理由になりたい」
いつも誰かと話すときだって緊張して上手く話せない自分が、今はこんなにもすらすらと言葉を紡げている現実が信じられない。
きっと、自分の中でいつの間にか大きく膨らんでいた本心だから、一言一句間違わずに言えているだろうなと思った。
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