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しばらく抱き締めていたけれど、自分の腕の中で何も言わずに大人しくされるがままの玖珂白桜さんに徐々に不安が募る。 抵抗どころか何も言わないなんて、抱き締めているのが自分じゃなく、いい人を装った誘拐犯だったらどうするんだろう。 こんなに大人しくしてたら簡単に連れ去られてしまうのは当たり前だ。玖珂白桜さんは誰にでも抵抗しないんだろうか。 さっきまでとは違うドキドキに胸が支配されそうになり、玖珂白桜さんの様子を窺おうと抱き締めていた腕を解こうとした時。 「…学校行事の最中にそういうことは、あまり関心しないね」 「っ!?」 ふいに後ろで聞き覚えのある声が聞こえ、慌てて玖珂白桜さんから距離を取り、声の主を振り返った。 そこにいたのは隣のクラスの担任、玖珂白桜さんのクラスの担任である皇彩人先生。 そして、玖珂白桜さんの親戚らしい人。 「俺のクラスの子が倒れたって聞いたから様子を見に来たんだけどね。もうすぐ開会式も終わるから。でも今回は俺でよかったけど、他の先生方に見つかると面倒だからこういうことはやめようね、城戸くん」 「っは、はははいっ…!!!すす、すみませんっ」 相手が誰であろうと、人に見られて恥ずかしい場面を見つかってしまったことに動転してしまった。 顔に集中する熱に急ピッチで動き出した心臓が、思考回路を鈍らせる。 「今見たことは目を瞑っていてあげるから、君はもう開会式に戻っていいよ。まぁ、もう終わりそうなんだけどね」 「わ、分かりましたっ。しし失礼、します…!!」 一刻も早く人の目から立ち去りたくてその場を後にしようとしたら。 「あ、…あのっ」 玖珂白桜さんの声が自分を呼び止めたような気がして、目を見開きながら振り返った。 「あの……ありがとうございました、和遥さん」 「…っ、」 「もう大丈夫です。体育祭、楽しみましょうね」 そう言ってふわりと自分が大好きな笑顔を見せてくれた玖珂白桜さんに大きく頷いてみせて、また前を向き直した。 恥ずかしさと嬉しさを抱えながら残り僅かだろう開会式に参加して。 あの場を離れるべきでなかったことに気付いたのは、ちょっと長引いた開会式が終わり退場門に辿り着いた時だった。 .
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