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玖珂白桜side
和遥さんがいなくなってしまって、彩人さんと2人きりの空間が作られた。彩人さんとこうして2人きりで対面するのはすごく久しぶりだ。
玖珂家を出てからは初めてだし、言葉を交わしたのも挨拶を含まなければ夏休みに入る前が最後だったはず。
「倒れたって聞いたけど、大丈夫??体育祭には出られそう??」
愛想のいい笑みを浮かべながら、教師として言葉を投げ掛けてくる彩人さん。2人きりになってもその姿勢は変わらないことが、もう私のことなんてどうでもいいと言っているようで、胸が苦しくなった。
「…大丈夫、です。ありがとうございます」
「そう。それならよかった」
これで話は終わりかな、と思ったのに彩人さんは私を見つめたまま一向にこの場から動こうとしない。
まだ何かあるのかな。出来れば今は1人になりたい。そう願ってみても彩人さんは何も言わずにただじっと私を見ている。何を考えているのか分からないような笑みを浮かべながら。
それに耐えきれなくなり、堪らず私は口を開いた。
「あ、あの…まだ何か…」
言葉が震えるのを、抑えられなかった。これ以上何かを言おうと口を開けば、全く違うことを口走ってしまいそうで怖くなる。
やめて。そんな目で見ないで。勘違いをしてしまいそうになるから。
まだ、見捨てられていないのかもしれないと。本当はきちんと愛されていたのかもしれないと。また玖珂家に来なさいと言ってくれるかもしれないと。
惨めで哀れな勘違いをしてしまう前に、私を見つめるのをやめて下さい。お願いします。
「…白桜」
「っ…!?」
伸びてきた手。
がっしりとした、でも綺麗な手。
その手に、何度も白い世界へ導かれた。
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