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「……ハクちゃん…っ!!」
あぁ…どうして、いつもあなたはこんな時に私を抱きしめてくれるの。
1人で弱くなりたい時に限って、温もりを与えてくれる。私がついさっきまで思っていたことをどろどろに溶かして、無かったことにしようとする。
「っ…響、也さん…」
「どうして泣いてるの…!?オレの知らないところで泣かないでよ……お願いだから」
ふわりと、響也さんの男らしい甘さを含んだ香りがひどく安心する。本当はダメだって思っているのに、この香りにずっと包まれていたくなる。
「響也さん…どう、して」
「もう開会式終わったんだよ。でも開会式中もずっとハクちゃんが心配で心配で…1秒でも早く会いたくてここへ来てみたら泣いてるんだもん」
「……私、」
「お願い、ハクちゃん。オレは泣いているハクちゃんを見るのは苦しいけど、オレの知らないところで、見えないところでハクちゃんが泣いているのはもっと苦しくて嫌なんだ」
優しい人。
「頼むから…1人で泣かないで。泣きたい時はオレの胸の中で泣いて」
温かい人。
「…好きなんだ」
甘い、甘い、言葉と匂い。
私をどろどろに溶かしてしまう、人。
少し緩められた腕の中から、響也さんを至近距離で見上げた。私が泣いていたはずなのに、響也さんの方がずっと悲しそうな表情をしていて。胸がぐっと掴まれたように苦しくなった。
堪らず、響也さんの頬を両手で包み込み、顔を近付けて―――――触れるだけのキスを、した。
「……っ」
響也さんはこれでもかってくらいに目を見開いて、固まっている。それを溶かすように、もう一度、今度は深く唇と唇をくっつけた。
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