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触れている唇から、響也さんの困惑が伝わってくる。それでも私は響也さんの唇に触れていたかった。
そろそろ離れなきゃ、と思い顔を後ろに持っていこうとしたけど、ついさっきまで困惑していた響也さんの手が私の頭の後ろに回った。
しっかり固定するように掴まれて、離そうとしていた唇が離れない。それ以上に、どんどん深くなっていくキスに思考が上手く回らなくなってきた。
「んっ…はぁ…」
「……ずるいなぁ、ハクちゃんは」
「ひび、っ……んんっ」
魅惑的に動く舌に翻弄されてしまう。気持ち良くて、もっとしてほしくなって、縋り付きそうになる。
私の悩みや不安、恐怖をこの瞬間だけはすべてを忘れさせてくれるキスに、酔いしれていた……時。
「………いい加減にしろよお前ら」
氷柱で胸を刺すような、冷たくて重い声が、響也さんの後ろから聞こえてきて慌てて私は響也さんの胸を力一杯に押し返した。
それなのに響也さんは微動もしなくて、キスも止めてくれない。声の主が誰だか分っているくせに……こんな場面を、見られたくなんてないのに。
「響也」
「…もぉ、いいとこだったのに邪魔しないでよ~」
「何言ってんだお前。次てめぇの種目だろうが」
「あれ、もうそんな時間なんだ~。じゃぁすぐ行くから、トッキーは先に帰ってていいよ~」
「……」
私の視界は、響也さんの胸に押し付けられているせいで真っ暗。声の主である叶貴さんがどんな表情をしているのかも分らない。
きっと、とても恐い顔をしている。せっかく呼びに来てくれたのにこんなことをしていたなんて知ったら、誰だって嫌な思いをするよね。
しかも相手が私なら尚更、叶貴さんは私のことが嫌いだから不愉快な思いをしているに違いない。
これ以上、叶貴さんに嫌われるようなことはしたくないのに。
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