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まだ救護のテントで休んでればいいものを、人間恐怖症があるくせにこんな大勢の中を1人で来たと言うことは、響也と天磨の応援にでも来たんだろう。
響也がいない状況で、俺は玖珂白桜と2人きりで話したことがほとんどない。しかも今は、あんな場面を見た後で、響也を応援しようとしている玖珂白桜に声をかけようなんて気持ちにはこれっぽっちもなれなかった。
玖珂白桜へ向けていた視線を前に戻す。はっきりとその瞬間を見たであろう玖珂白桜が、後ろでどんな表情をしているのか気にもなったが、再度振り返ることは絶対にしなかった。
未だにひそひそと玖珂白桜の話をする声が聞こえてくる。それもそうだ、玖珂白桜が学校行事に参加するのは今回が初めて。
3年なら情報が回るのは早いと思うが、既にほとんどの部活が世代交代をした今、3年と後輩たちの接点はほとんどない。
となれば自然と、1、2年はまさか玖珂白桜が学校行事に出るとは思っていなかっただろうから驚くのは当たり前だ。
『あ、あのっ』
それぞれの縦割りクラスの応援団の声や、実況放送のアナウンスの音が飛び交う中、僅かに聞き取れた男の声。
『玖珂白桜先輩ですよね!?俺、1年なんすけど、先輩とずっと話してみたかったんです!!』
『おっ、俺もです……!!!うわぁ、やっぱ近くで見るとマジで人形みたいですねー!!』
『1人で見てるんです??俺らと少しお話しません??先輩と仲良くなりたいんすよっ』
『やっべー…ちょー肌白いしほっそ!!ポニーテールとかたまんねぇー……』
もしかして俺は地獄耳の持ち主かもしれねぇ、と本気で思った。そして聞こえた言葉にピキッと頭の中の何かにヒビが入る。
絶対に振り返ってなんかやらねぇと思っていたが、振り返ざるを得なくなったから仕方なく、振り返れば。玖珂白桜を3人の男が囲っていた。
内1人は玖珂白桜の腕を掴んでいる。その光景に、自然と右足が大きくそちらの方向へ動いた。
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