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盛大な舌打ちを隠すこともせずにすれば、玖珂白桜は大きく肩を揺らしてグレーの瞳を揺らす。後ずさろうとしたくても出来ない、そんな声が聞こえてきそうだ。 玖珂白桜が俺のことを怖がっているのは知っている。その原因がすべて、俺の言動からきていることもよく分かっている。 だが、どうしても玖珂白桜を見ると苛立って仕方がない。ざわざわと心の中が落ち着かなくなり、自分でもどうすれば冷静でいられるのか、分からない。 「…あ」 次に何を言えばいいのか分からないままでいたとき、小さく玖珂白桜の声が漏れたのが聞こえた。 わざとずらしていた視線を玖珂白桜に向けると、グレーの瞳は俺ではなく、俺の後ろを見ているようだった。玖珂白桜が見ている方を振り返り、漏らした声の意味を理解する。 「いちについてーよーい」 響也のレーンの順番が来たのだ。スタートラインに立ち真剣な顔で真っ直ぐ前を向く響也が、一瞬、一瞬だけ、こちらをちらっと見たような気がした。 ――――――パンッ ピストルの火薬の音と共に一気に駆け出した響也は、圧倒的に早く、そのまま1位でゴールテープを切った。 そのまま退場門まで走っているということは、あと少しもしない内にここへ来るだろう。マジでどんだけ玖珂白桜のことが好きなんだよ、とげんなりした。 きっと響也の走りに感動して目をキラキラさせているんだろうな、と思いながら振り向きたくない気持ち半分に玖珂白桜を見れば。 「……は??」 2.0の自分の視力を疑った。 目をキラキラさせているなんて、そんな面影はどこにもない。何故か顔を真っ青にしてガタガタと手足を震わせている。 それは、開会式の時に玖珂白桜が突然たおれた時の様子に酷似していて。直感で、これはまずい、と思った。 .
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