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五十嵐響也side
やっと終わった。
高校生活最後の、いや恐らく人生最後の体育祭は早く終われと願うばかりのものになった。
ハクちゃんを保健室のベッドに寝かせてしっかりと鍵を閉め、クラスメイトたちにはハクちゃんは体調不良で家に帰ったことを伝えた。
心配の声と、楽しみにしていた仮想リレーを見れなくなった落胆と、代役探しの焦燥の声が飛び交う中、オレは自分の種目を適当にこなして頭では家に帰ってからのことばかりを考える。
1日に二度も、原因不明のままハクちゃんが倒れたなんて、絶対におかしい。
熱を測っても低体温のままだし、過呼吸や熱中症になったわけでもない。つまり、精神的なことでハクちゃんは倒れたとしか考えられない。
思い出せ。ハクちゃんが倒れたときに共通していたことがなかったか、思い出すんだ。
一度目は、開会式が始まってすぐ。二度目は、オレの出番が終わってすぐ。共通していることは、体育祭、大勢の人の中、ということくらいか。
初めて参加する学校行事に緊張しすぎたのか、でも体育祭が近付くにつれてとても楽しみだと笑っていたハクちゃんからは緊張なんて感じなかった。
大勢の人の中だって、まだ人間恐怖症があるとは言え、毎日学校にいればたくさんの人と通りすがるし、体育祭の練習の時だって何ともなかった。
……分からない。何が原因なんだ。
家に帰ってハクちゃんの様子が大丈夫そうなら、本人の口から聞いてみよう。答えてくれるか分からないけど、もしまたオレの知らないところで倒れたりなんかしたらその時こそ心臓が止まりそうだ。
今日だってずっとハクちゃんのことが心配すぎて鼓動はいつもより1.5倍くらい早かったし、倒れたときのハクちゃんを運んでいるときなんてこのまま目が覚めなかったらどうしようかとすごく怖かった。
ハクちゃんを失うなんて、考えられない。ハクちゃんの身に何かあったら、それこそオレは壊れる。自分自身を保つためにも、知らなければいけない。
――――――ハクちゃんの過去を。
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