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ベッドの下にあるゴミ箱が倒れている。さっきの物音はゴミ箱が倒れたときのものだったんだと僅かに働く頭で納得した。
その箱の中からはくしゃくしゃに丸められたティッシュが何枚もあり、……コンドームの残骸らしきものも混じっていた。情事の後だという何よりもの証拠だった。
「……あぁ、ゴミ箱は私が片付けるからそのままにしてていいよ。君は体育祭の片付けに戻るなり、家に帰るなりすればいい」
ゆったりとした、穏やかな声域に危うく騙されそうになるが、この男は間違いなくオレの敵。しかも学校の校長と言う肩書き付き。容姿端麗、頭脳明晰。そんなことよりも、オレにとって絶望的なのは。
「ん…」
布団の中、微かに身動いだハクちゃんはスリスリと男の胸に頬を寄せる。そんなハクちゃんを愛おしそうに見つめ、白金の髪を優しげな手つきで撫でる男。
2人の間には、オレなんかが入る隙もないような甘く、はっきりとした信頼関係があるように見えた。何より、ハクちゃんがこんなに安心しきっている寝顔を見たことがなかった。
オレが男のいる場所にいたとしても、ハクちゃんをこんな顔で寝かせてあげる自信があると言えないことが悔しい。悔しすぎて、奥歯をギリッと強く噛み締めた。
「…あなたは」
「ん??」
「あなたは、ハクちゃんの親戚なんですよね」
「あぁ、そうだよ。普通の親戚ではないけどね」
「……ずっと疑問に思ってました。ハクちゃんの名前は日本人らしいのに、容姿は外国の血が混ざっているとはっきり分かる。あなたとハクちゃんの関係は、何ですか」
「うーん…私と天使の関係を説明するのは難しいかな。でもこれだけは言っておこうか」
――――この子には、ベルギー人、アメリカ人、日本人、ロシア人の血が混じっている。
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