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天井が、遠い。
いつもと同じ位置で、いつも同じように見上げている茶色の天井が、空のように果てしなく遠く感じるのはどうしてだろう。
あれから、オレは保健室を後にするしか選択肢はなかった。何も言い返せず、何も聞けず、ただただ虚しく保健室の扉を閉めることしか出来なかった。
今もあの男とハクちゃんが1つのベッドの上で一緒に寝ているのかと思う暇もないほどに、オレの頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していた。最後にあの男は何と言った……??
「日本人と、アメリカ人と……なんだっけ…」
オレの中に流れている血は、紛れもなく日本人の血だけだ。人によっては、2ヶ国の血が流れている人もいる。稀に、ハーフやクウォーターの人間はいる。別に珍しいことではない。
でもあの男は、確かに4つ言ったはずだ。日本人、アメリカ人、ここまでならまだ分かる。父親と母親のどちらかがアメリカ人なら当たり前のことだからだ。
だけど、ハクちゃんの容姿はどちらかというとアメリカ人のハーフやクウォーターには見えない。例えるなら、ヨーロッパや北国の人種。そう、ロシア人のような。
「……ロシア。ロシアと、なんだっけ…」
もう1つ。もう1つ言っていたんだ、あの男は。あまり聞きなれない国の名前を。どこにあるんだっけと一瞬思ってしまうような国の名前を。一体、何語を話すんだと思ってしまうような国の名前を。
「ベルギー……」
そう、これだ。ベルギー人、とあの男は確かに言った。本当に意味が分からない。どうして4ヵ国もの血が混ざっているのに、ハクちゃんの名前は“玖珂白桜”なのか。
玖珂家に引き取られたから“玖珂”になったのか。だとしたら、ハクちゃんの両親は本当にどうしているんだ。親戚、なんて4ヵ国もの血が混ざっているなら、その4ヵ国にもそれぞれいるはずなんじゃないか。
「意味が分からない…」
まだまだハクちゃんのことで知らないことがあるんだと思い知らされて、オレは1人、自分のベッドの上で頭を抱えた。
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