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身も心も私の全てをこの人になら捧げられると思ってしまう何かがこの人にはあって。しばらく触れられなかった期間を響也さん達の優しさでカバーしてきたけれど。 私の手を握る手は、大きさも体温も皮膚の感触も、彼らとは全然違う。自分勝手にも程があるだろうと自分自身にほとほと呆れるが、この手を離したくないと、この手に触れられたいと心が訴えてくる。 「天使、そろそろ帰らないといけない時間だ」 「……どこに、ですか」 「君が今住んでいるところに、だよ。…その様子だと、何かご不満かな??」 「っ…」 不満も何も、聞きたいことはたくさんあったはずなのに。どうして私を外に出すことを許したのか、どうして私を響也さんの家に預けたままなのか、どうして迎えに来てくれないのか。 本当は、次に2人きりになれたら全部聞き出したいと思っていた。それなのに、いざ槙志さんと密閉空間に取り残されたら言葉よりも身体が先に動いてしまっていた。 包容力のある、広い胸に額を擦り付けて、大好きな槙志さんの匂いに包まれて、涙が滲み出そうになった刹那。 ベッドに押し倒された時の痺れるような期待とうっとりするような幸福感に目の前がいっぱいになって。結局、最後まで繋がり、淫らに喘ぐことしか出来なかった。 「…もう、私は…いらない、ですか……??」 空気に溶けていくように弱々しくなった語尾は、きちんと槙志さんの耳に届いただろうか。届いてなければいいな、と自分の発言を後悔した。 これではっきりと「いらない」なんて言われたら、私はもう立ち直れない。ロイスやディオンを失った時のように、自分の手首に刃物を押し付けるかもしれない。 どうか、どうか、何も答えが返って来ませんように。そう願う途中、すぐ耳許で囁くように彼の息が震えた。 「………まさか。天使はいつまでも、永遠に私の天使だよ」 .
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