8

12/20
前へ
/275ページ
次へ
若者言葉を勉強しないと、と意気込みでいるとリビングの扉が開いて大きな欠伸をしながら響也さんが入ってきた。 「ふぁ~…アリサ、うるさいんだけど何し、て……」 金髪の派手な女の子を「ありさ」と呼んだ響也さんは、擦っていた目を開いて私と視線が交わったとき、ぎょっとした顔をして言葉を切った。 その後すぐに、気まずそうな、焦ったような表情になって視線をうろうろさせている。そんな顔を見たことがなかったから、もしかして響也さんと「ありさ」さんは恋人なのかな、と思った。 だとしたら私は今まで邪魔者でしかなかったってことで。本当は今日みたいに「ありさ」さんを家に呼びたくても私のせいで呼べなかったのかもしれない。 響也さんも、響也さんのお母さんも何も言わずに優しくしてくれたからすっかり忘れていた。私は、ここにも長く居座ってちゃいけない。 「なんかーチャイム鳴ったからドア開けたらさっ、はくらんがいたんだよねぇ!!マジちょーぜつビビったんですけど!!」 「…ってか、何でお前、まだここにいるわけ??早く帰れよ」 「はぁ!?だーかーらーっ、今日はここに泊めてって言ってんじゃん!!!ケチケチすんなよひびやーん」 「……はぁ」 初めて聞いた、響也さんの荒っぽいしゃべり方。こんな一面を見せられるくらい、「ありさ」さんと仲良しなんだ。ちくり、と胸が痛む。 がしがしと茶髪をかきむしり、盛大な溜め息を吐いた響也さんを見て、私は慌てて椅子から立ち上がった。 「あ、あの……っ、勝手にお邪魔してすみませんでした…!!日を改めてまた来ます。今日は帰りますので、これで失礼しますっ」 早口で捲し立てるように叫んだから、自分でも何て言ってるか分からない。ただ今は、この場から1秒でも早く立ち去ることが正解だと思った。 .
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

469人が本棚に入れています
本棚に追加