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響也さんの大切な人との時間を邪魔するわけには行かない。少しでも私に出来ることをしていかなくちゃ。
「…わ、私、お邪魔ですし…やっぱり帰りますね。ありささん、失礼しました」
ペコリとありささんに頭を下げて、まだ捕まれている腕を引き抜こうと引っ張ってみる。それなのに全然離してくれない響也さんの目が、いよいよ光を無くした。
「ハクちゃん」
「…は、ぃ」
「ちょっと上で話そうか」
「……」
目の全く笑っていない笑顔。ひんやりとその場に氷の枷をつけられたように動けなくなるような、そんな笑顔を向けられて。
操られたように、気付けば横に振りたかった首はぎこちなく、けれどはっきりと縦に振っていた。
「アリサ、早く帰らないとオバサンたちにアノコトばらすよ」
「うーっわ鬼すぎっしょー!!マジ糞野郎だなくーそ!!うーんこ!!ひびやんうんこー!!!」
「黙れガングロヤマンバ。ほら、とっとと帰れ」
「ちぇっ。はいはーい、今日のところはバイバイキンしますよーだ!!あ、はくらん!!また今度ゆっくり話そ!!んじゃ、さらばだーっ」
「……はぁ」
嵐のように去っていった「ありさ」さんの姿も気配も完全に消え、この数分で年を取ったように疲れを見せた響也さん。長く太く吐き出されたため息が痛々しい。
本当に良かったのかな、私が邪魔しちゃったのかな、と内心は不安しかない。響也さんの顔を見ることも出来ずに、ただ床を見つめていた。
「…ハクちゃん」
「……」
「オレの部屋、行こっか」
「…はい」
ふと、さっきまでの声が嘘のように、優しく甘い響きを持った声音に包まれて断れるはずもなく。捕まれていた腕は離され、代わりに手を握られてそのまま誘導された。
今日、この1日でいろんなことがありすぎて頭の中は上手く整理できずにいる。響也さんの背中が近いはずなのに、遠く感じた。
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