469人が本棚に入れています
本棚に追加
五十嵐響也side
……まずい。やってしまった。
愛しくてたまらない子の名前を何度呼んでも起きる気配はなく、かわりにグッタリとベッドに沈むハクちゃんを見て顔からサッと血の気が引ていく。
ハクちゃんが2回も倒れたとこから始まり、玖珂槙志とハクちゃんのベッドシーン、アリサと恋人だと勘違いされたこと、色っぽく喘ぐハクちゃんの姿に今まで我慢していたものが決壊してしまった。
「ハクちゃん、ハクちゃん…」
綺麗な裸体に掛け布団をそっと被せ、ベッドの下に座り込み、ハクちゃんの寝顔に縋るように手を握り、額に押し付けた。
――――ごめん、ごめんね、ハクちゃん。こんなはずじゃなかった。こんなことがしたかった訳じゃなかったんだ。
ただ、ただ、オレは君が好きなだけなんだ。それなのに、その気持ちを伝えたと、伝わったと思っていたのに、あり得もしない誤解をされて……頭に血が上っちゃったんだ。
「好き、好きだよ、ハクちゃん」
どうしたら君を手に入れられる……??
どうしたらオレを見てくれる……??
細くしなやかな指一本一本にキスを落としていく。それが終わると、今度はハクちゃんの柔らかい頬に連続で押し付けた唇。
瞼にも、鼻の先にも、耳にも。首筋や鎖骨には、強めに吸い付いて赤い痕を残した。残した後に、玖珂槙志がハクちゃんの身体に何の痕も付けていなかったことに気付いた。
……これが、高校生であるオレと大人で校長という立場にある玖珂槙志との差なのかと思い知らされる。
保健室で事に及ぶこと事態は教育者として、大人としてあり得ないことだ。しかし、彼の場合はハクちゃんを無理矢理抱いたりはしないだろう。
それに比べてオレは、突然押し倒し、ハクちゃんの声も全て無視して強行突破に出ようとした。ハクちゃんの気持ちなんて考えずに、自分の欲望のままに。
ひどい自己嫌悪に襲われ、ハクちゃんの傍にいることすら苦しくなってきたオレは電気を消し、そっと部屋から出て頭を冷やすためにシャワーへと向かった。
.
最初のコメントを投稿しよう!