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本当にただ報告をするだけして、しっかり恋人繋ぎのまま、2人はさっさと空き教室を出ていった。恐らく、2人だけでこれからは昼食を取るつもりなのだろう。
家でも一緒。学校でも一緒。結婚してる夫婦ですら、こんなに四六時中一緒にいることもないだろうに。
自分は学校でしか玖珂白桜さんと接する場所がない上に、クラスも違うから休み時間や下校の時に少し話せるくらいで。家での玖珂白桜さんがどんな様子なのかなんて、知らない。
圧倒的に玖珂白桜さんと過ごす時間が長かった響也くんが玖珂白桜さんと恋人同士になるのは、最早当たり前のことだったのかもしれない。
「う、嘘だろ…」
2人がいなくなった後、呆然と頭を抱えた天磨くんの彼らしくない弱々しい声だけがやけに耳に残った。
叶貴くんは4つ目のトンカツサンドを平らげて、無言のまま席を立ち、教室を出ていった。自分は弁当に手をつけるのも忘れて、元からの猫背をさらに丸めて俯く。
悲しい、とか。ショックだ、とか。そんなことは思わなかった。まず最初に浮かんだ感情には、自分自身が一番驚いた。
―――――何で、自分じゃないのか。
確かに玖珂白桜さんと過ごす時間は響也くんよりも少なかった。天磨くんのように話題のつきない話が出来るわけでもなかった。
それでも、玖珂白桜さんに自分と似てる部分を垣間見たとき、自分達はお互いのことを一番に理解しあえるんじゃないかと、そう思ったのだ。
例えば、口下手なところ。例えば、控え目なところ。例えば、自分に自信がないところ。
話せば話すほど、彼女と自分の共通点を見つけて、見つけるたびに彼女に近づけたような気分になって、嬉かった。幸せな気持ちになれた。
彼女の優しい微笑みを温かく見守り、大切にしていける自信がどこかで勝手にあったのかもしれない。誰にも負けない自信が。
それなのに――――……
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