9

5/24
前へ
/275ページ
次へ
玖珂白桜side あの日、響也さんにベッドに押し倒されそのまま気絶してしまった後、目が覚めたときにはしっかりパジャマを着せられ、響也さんのベッドの上ではなく、いつもの部屋にいた。 リビングでは普段通りに響也さんのお母さんが笑顔で出迎えてくれて、少し遅れてから響也さんが目の下に隈をつけながら入ってきた。 その場では前日のことなんてなかったかのような普段通りの態度だったけど、「行ってきます」といつものように響也さんの家を出て少し歩いたところで突然、響也さんは土下座をした。 あまりの必死さに本当に後悔していることが伝わって、私はすぐにその場で彼のことを許した。元々、怒りなんてものはなかったけれど、やっぱり不安や恐怖は拭えなかったから響也さんの言葉に安心できたのだ。 それから私たちはいつも通りの日々を過ごしていたが、あの日以来から響也さんの私への想いが本気でとても大切にされていること、愛されているとこが痛いほどに感じられて。 私は、響也さんの恋人になることを決めた。 響也さんの想いの強さに流されたわけではない。彼は決して自分の想いを押し付けたりはしなかったし、返事を急かすようなこともなかった。 それでも私が響也さんと付き合うことを決めたのは、私の響也さんへの想いが恋愛感情なのか友情なのか、はたまた家族愛なのか、そのどれにも当てはまらないのかが分からなかったからだ。 本来ならば、恋愛感情を持ってから付き合うことが理想的ではあるけれど、自分の気持ちをはっきりさせる切っ掛けが欲しかったこともあり、それを正直に響也さんに伝えると。 『それなら、試しにオレと付き合ってみようよ。オレへの気持ちをはっきりさせる一番の近道だと思う。もし違うなとはっきり分かったら教えてほしい』 でも諦めたりはしないけどね、とウインク付きで言った響也さんの提案に頷いたのが、私と響也さんの関係の始まりだった。 始まったばかりの関係。この2週間後、思いもよらぬ出来事さえなければ、私の響也さんへの想いは確実に恋愛感情になっていただろう。 .
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

469人が本棚に入れています
本棚に追加