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響也さんと恋人同士になってから、約2週間が経った11月の下旬。日本列島は一気に冷え込み、吐く息の白さが濃くなった。 高校3年であるこの学年は推薦で大学が決まった人は例外として、受験勉強にさらに力が入る時期となった。響也さんは県内の国立大学を目指していて、今のところA判定だから余裕そうだ。 私と言えば、全国模試でトップに入る成績を出してしまったせいであらゆる大学からのスカウトが来ているが、大学には一般受験で入学を決めたい。 ただ、どこの大学に入るかはまだあやふやで、将来の未来設計も何もない私は大学でやりたいことを見つけるのが一番だとは思う。 でも私には、既に大学で過ごした経験がある。 しかも、卒業証書だってもらっているのだ。大学を卒業して大学院でとある研究者として日々を過ごしていたところに、あの事件が起こってしまった。 普通の同級生たちよりも少し早く経験して、思い入れのある高校、大学の一貫校の校舎は、跡形もなく焼け野原となり、私の過ごした思い出もまでが消えてしまったようで。 玖珂家に引き取られ、日本に来てからは、飛び級した事実は隠して普通の年齢に見合った生活を送ることにしたのだ。 それでも、慣れ過ごした土地を離れ、大切なものを全て失った私は、もう一度新たに人間関係を築こうとは到底思えず、死んだように生きていこうと無駄に過ごしていたのに。 友達だけではなく、恋人まで出来てしまったのだから、やっぱり人生は何が起こるか分からない。 「みんな、おはよう」 教壇に立つ彼とだって、親戚であるのに身体の関係を持ち、それなのに今は普通の生徒と教師と言う普通の関係になっている。 それでも、罪悪感が消えるわけではない。失ってしまった彼らを想って心を痛めない日はない。そして今日は、その痛みが一段と強い理由を私は知っている。 「突然だけど、転校生を紹介します」 ざわ、と響動めいたクラスの空気も今の私には上の空。だって、今日は。 「どうぞ、入って下さい」 ―――――11月24日。 あの日から、2年が経った。 .
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