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澄んだ真っ青の空のような瞳は、あの頃と何も変わらないまま。温かくて、真っ直ぐで、安心する眼差し。 ゆらゆら、ゆらゆら。ゆらゆら、ゆらゆら、ぽろり。ぽろぽろ、ぽろり。はらはら、ぱらぱら。 零れて、溢れて、また零れて。はっきりとディオンの顔を見たいのに、涙が邪魔をする。止まって、と唱えるのに言うことを聞いてくれない。 『セラフィーナ…』 『……ディ、オン…ッ』 勢いよく椅子から立ち上がり、目の前に立つディオンに向かって手を伸ばし、懐かしく、でもあの頃よりさらに逞しくなった胸に飛び込んだ。太くがっしりとした腕が私の身体をすっぽりと包み込む。 40㎝近くある身長差によって、必然的に私の頭はディオンの胸より少し下くらいになる。大きな背中に腕を回しても、半分以上も届かない。 『セラフィーナ…ッ、セラフィーナ!!!』 『あっ、あぁ、ディオン……ディオン…』 ここが教室であることなんてすっかり頭の中から抜け落ち、たった2人だけの世界にいるかのようにお互いを抱き締め合う。 もう二度と会えないと思っていた大切な人との再会。住み慣れた土地を共に過ごした兄のように慕っていたディオン。匂いも、温もりも、心臓の音も、ディオンで間違いない。 『セラフィーナ、顔をよく見せてみろ。やっと……お前に会えたんだ』 『私もディオンの顔をよく見たい。見たいのに、涙でぐちゃぐちゃ……今の私の顔、とってもブサイクよ』 『それでも見せてくれ、セラフィーナ。涙を拭いてやるから』 抱き締めていた腕を緩めてディオンの頬を両手で挟み、顔を上げる。ディオンも同じように私の頬を大きな手ですっぽりと耳まで包むと、次から次へと溢れてくる私の涙を親指で拭っていく。 少しだけはっきりとした視界いっぱいにディオンの顔があって、そしてまた胸がいっぱいになり涙が溢れる。苦笑したディオンの唇が私の頬に落ち、涙を吸った。 .
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