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視線を向けた先には、こちらを何の感情もこもっていないグリーンの瞳がじとりと私を見据えていた。瞬間、嫌な予感と焦燥感に襲われる。
私とディオンの関係を、誤解しているかもしれない。アメリカでは挨拶として常日頃から行う頬へのキス。教室内で当たり前のようにしてしまったが、日本では異性とハグすることすら習慣にない。
目が合えばいつも微笑んでくれた響也さんなのに、今回ばかりはその感情のこもっていない瞳のまま、さっと逸らされた。チクリと胸が痛む。
そして何故か私の視線は響也さんから叶貴さんの席へと向けられていた。何故か、彼にも誤解されているんじゃないかと思ったからだ。誤解されたとしても、何てことはないはずなのに。
叶貴さんの席の2つ後ろに座る私からは、既に席に着いていた叶貴さんの背中しか見えない。私とディオンのやり取りを、どんな表情で見ていたのか気になってしまうのはどうしてなんだろう。
誤解されたていたら嫌だなと思うのは何でなんだろう。叶貴さんは私と響也さんが付き合っていることを知っているから、浮気する最低な女だと思われたくないだけなんだろうか。
さっきからズキズキと痛む胸に手を当てて、そっと瞼を閉じる。今は、響也さんや叶貴さんのことではなく、ディオンのことを優先すべきだ。
離れていた2年の月日を埋めるようにお互いに話したいことは山ほどある。それに今日は、あの日から2年が経ったのだ。そしてそれと同時に、ロイスの命日でもある。
まだ一度もロイスのお墓参りにも行けていないから、きっとロイスは私のことを恨んでいる。私が行ったとしても顔も見たくないくらいに憎んでいるかもしれないけれど。
それでもいつか必ず、彼のお墓の前で頭を下げたい。許してもらおうなんて望んでいないけれど、謝罪をすることくらいは許してほしい。
―――――――許してほしい。あなたが好きだった『ガマズミ』の花を添えることも。
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