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あれよあれよと過ぎていった午前中の授業。そして一段と騒がしくなった小さな箱の中からは、お腹を空かせた生徒たちが我先にと購買へ駆けていく。
やっと訪れた昼休みに、私はいつも食事を共にしている女の子たちに頭を下げて、ディオンの元へ歩み寄った。女の子たちはどうぞどうぞと言わんばかりに背を押してくれたくらいだ。
『ディオン』
『セラフィーナ。飯、どこで食う?』
『空き教室がどこかしらはあるはずだから、そこで食べよう。でもディオン、ご飯はきちんと持ってきた?』
『当たり前だろ。つっても、コンビニで買ったやつだけどな。日本のコンビニはすげーのな。迷ったから迷ったやつ全部買ってきた』
『ふふっ、大食いのところも相変わらずね。さ、行きましょう』
私は響也さんのお母さんが作ってくれたお弁当箱を腕に抱えて、ディオンを案内するべく少し前を歩く。それでも、歩幅が違いすぎるため、ディオンはゆっくりと私の歩調に合わせて隣を歩いた。
廊下に出ると通りすがる生徒はもちろん、教室の中からも視線を感じる。こんな時期の転校生、しかも外国人で身長が2m近くともなれば注目の的になるのは当たり前だろう。
しばらく歩くと、教師も生徒もほとんどいない校舎の一室に入る。少し壊れた椅子や落書きがたくさん書かれている机が積まれている中で、まだマシそうな椅子に座った。
『日本の教室ってちっせぇーのな。日本人もやっぱり皆ちっさくてビビったぜ』
『確かにそうよね。ディオンには少し小さくて座りづらい椅子かもしれないけど、我慢して』
『あぁ。それよりセラフィーナ、寒くねーか?この教室、暖房とかつかねーの??』
『一応つくと思うけど……勝手につけたら怒られそうじゃない?』
『お前がそんなに寒そうなのにつけるなって方が鬼だろ。いいから、つけようぜ』
私をさりげなく気遣ってくれるディオンの優しさに、それだけで身体の内側から温まっていくような気がした。
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