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話をしている間にも次々とパンの山は減っていく。噛んで飲み込む時間も早いからか、1つを食べ終わるのに数分もかからないらしい。
真面目な話をしているのに、何故かディオンが相手だと雰囲気が柔らかくなっていく。それでも、きゅっと表情筋を引き締めて視線だけで続きを促した。
『写真と一緒に入っていた手紙を見てみたら、ある住所が書かれていたんだ。そこへ行けとも書かれていた』
『その場所へ行ったの?交通手段は?』
『もちろん行ったさ。タクシーで。お金は警察に保釈金を支払った人から手持ち金を預かってるからってそれを貰ったぜ』
『……そう』
『そんでその住所の場所へ行ってみたら普通のアパートだったんだ。よく見たらアパートの部屋番号まで書かれていたからその扉の前まで行って、一応インターホン鳴らしたんだけど誰も出なかった。ドアノブを試しに開いてみたら鍵はかかってなかったんだ』
お弁当を食べるはずの箸が一向に進まない。逆にディオンの手元には残り少ないおにぎりだけとなった。
『恐る恐る中に入ってみたんだけどよ。本当に普通の家の中でさ。家具もあったし、電気もついてた。だけど机の上に大量の雑誌と1枚の白い紙が置かれているのが目についたんだ』
『大量の雑誌…??』
『おう。最初見たときは何の雑誌か全く分からなかった。しかも1冊がとてつもなく分厚くて、よく見たら表紙は日本語だった。何だこれ、と思ったら白い紙に、この雑誌の中にあるたった1つの高校にセラフィーナが通っているって書かれてたんだ』
『私……』
『しかも続きによ。この家を好きに使っていい、生活費は棚に入ってる通帳から下ろせ、暗証番号はセラフィーナの誕生日とまで書かれてた』
『……』
こんな上手い話があるんだろうか。誰だかも分からない人間が、ディオンを刑務所から解放した。そして住む場所とお金まで与えた。一体、何が目的なんだろう。
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