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ぐるぐると、思考がパンクしそうな勢いで動いていく。分からないことが多すぎて、知らないことが多すぎて、怖い。 『おい、セラフィーナ?……顔、真っ青だけど大丈夫か?飯も全然食ってねぇじゃんか。どうした、具合でも悪いのか??』 『う、ううん。大丈夫よ。ありがとう、ディオン』 『ならいいんだけどよ』 大きな身体で子犬みたいな顔で心配そうに私を見るディオンに淡く微笑む。眉をしかめて怪訝そうな様子のディオンを見ていると、そのすぐ後ろにロイスの影を見たような気がした。 こうやって、私が少しでも様子がおかしいとディオンは心配そうな顔で、ロイスは嬉しそうな顔で私を医務室に連れていこうとしていた。 その度に2人はいがみ合っていたのがつい昨日のことのように思い出せる。 でも、そんなロイスはもうここにはいない。 ロイスは、今目の前にいるディオンが……殺した。それは、紛れもない事実で。でもディオンは何も悪くない。悪いのは全部私1人。 私を守ろうとしてその手を血に染めたディオン。そして私たちの3人で過ごした日々はもう二度と戻らない。過去にすることも出来ないまま。 途端に、涙が溢れそうになってディオンから視線を逸らして俯いた。胸がぎゅうっと押し潰されそうな痛みに襲われ、圧迫されてるように苦しくなる。 『セラフィーナ?』 ふと伸びてきたディオンの手。大きな、大きな、手。その手が私の髪に触れようとした時、パシンッと冷たい音が響いた。 音の次に、自分の手の甲がじわじわと痛んでいくのに気付いたとき、私がディオンの手を咄嗟に拒否してしまったことが分かった。 『あっ…』 『……』 慌ててディオンの顔を見上げて弁解しようとしたときにはもう遅かった。大きく目を見開いて、呆然と自分の手のひらを見つめるブルーの瞳。哀愁が漂い、ひどく悲しそうな顔で溢した自嘲の笑み。 反射的に、無意識にとは言え、自分のしてしまった行動に後悔の波が立つ。早く言い訳でも何でもいいから違うって言いたいのに、喉はからからと乾いて声が出なかった。 .
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