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違う。違うの。
『…ごめんな』
『っ…!!』
謝るのは私の方なのに。ディオンは何も悪くないのに。今も、2年前の今日も。
感傷の色が歪な笑みの下に見える。こんな顔を私がさせてしまったんだと思うと、居てもたってもいられなくて、気付いたときには椅子から立ち上がっていた。
勢いよく立ち上がり、そのままディオンの座る目の前に行くと、ぎゅっとディオンの頭を抱き締めた。胸元にディオンの顔が埋まるように、強く。
『違うの、ディオン…っ…謝るのは、悪いのは私の方よ。謝っても許されないし、許されようなんてことは思っていないけれど、謝らせて。本当に、本当に……ごめんなさいっ…あなたの人生をメチャクチャにしてしまった……!!』
『セラ…ッ』
『私さえいなければ……私がいたから……っ』
『やめろ』
『あの時、私が…私が死んでればっ!!!』
『やめろっ……!!!!!』
ひゅ、と息をのむ。肩を捕まれ引き剥がされると、ディオンの双眸が私を睨んでいた。睨んでいるのに、その奥にはひどい悲しみを滲ませている。
自分の言葉を撤回する気は、怒鳴られた今でもない。なぜなら、心からそう思っているから。何度もそうなればよかったと思ったことか。
それなのに、今も私は生きている。その事にどれだけ絶望し、悲しみにくれたことか。
『……セラフィーナ』
『っ…ふ、ぅ…なん、で…』
『頼むよ…セラフィーナ。そんな、そんな悲しいこと…言わないでくれ。嘘でも、本当にそう思ってたとしても、セラフィーナの口からそんな言葉は聞きたくない……』
『な、で…だって私、私が……』
『セラフィーナ』
ディオンが強く咎めるように私のもう1つの名を呼ぶ。その先を絶対に言うなと、そう言っている。だけど。
『私が、…私が皆を殺した……っ!!!』
『セラフィーナ!!』
真っ暗になった視界。闇の世界。これが私にはお似合いだと思うのに、全身は温かいものに包まれていて心は泣きたくなるほどホッとしてしまう。
胸を圧迫されそうなくらいに強く抱き締められて、縋ってはいけないのに、弱い私は簡単に大きく広い背中に腕を回す。
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